忘却の勇者

すると、サイはローブの裾から一冊の分厚い本を取り出した。


鍵がついた年季あふれる古い書物。


一見ボロボロの小汚い本に見えるが、オレオにはその本から今まで感じたことがないほどの溢れんばかりの魔力を直感的に感じ取った。


ただ目にしているだけなのに、身体の内側にいるなにかが円を描きながらグルグルと騒ぎ立てている。


それがなにかはわからない。


もしかしたらそれは、第六感による防衛反応なのかも知れない。


あれに触れてはならぬ。あれに近づいてはならぬ。と、数多の激戦を戦い抜いた勇者の血が警告しているのだ。


「これがその内の一冊だ」


サイはすぐさま本を戻す。


四聖官がなぜ魔王に唯一対抗できる勢力か、オレオはその本当の意味をぼんやりとだが理解した。


喪失魔術。それを有し扱える者は、四聖官しかいないのだと。
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