忘却の勇者
入り口に程近いテーブルに座って適当に飲み物を注文すると、少女はコーズに頭を下げてお礼の言葉を口にした。
近くて見ると、ますます端正な顔つきである。
パッチリとしたアーモンド状の瞳は、見るもの全てを引き込む眼力がある。
―――まあ、ミウには負けるけどな。
心の中で呟いたシスコン発言。もちろん少女の耳には届かない。
届いていたら、お礼の言葉も引っ込めるであろう。
少女の名はマリ。ある人物を探しに旅をしているのだと言う。
魔物が蔓延るこのご時勢に少女の一人旅はさぞ大変だろうとコーズが言うと、マリは「そんなことありませんよ」と笑みを含めながら断言した。
「私ある街で魔具屋の住み込みの仕事をしてたんです。お金を集めるためでもあったんですけど、その時に魔術の心得と魔具の扱い方を覚えたので、よっぽど強い魔物でなければ逃げ切る自信はあるんですよ」
そしてマントの裾から色取り取りの魔具をテーブルにばら撒いた。
アクセリー状の物が多数だが、どれも良質な魔法石を加工した一級品ばかり。