忘却の勇者
目を覚ますと、薄汚れた一室にいた。
家具らしいものは一切なく、壁は所々剥がれ落ち、中の鉄筋が姿を現している。
窓から茜色の光が差し込み、今は夕暮れ時だということをオレオはボンヤリとした意識の中で理解した。
徐々に覚醒していく頭。オレオは自分の姿を確認すると、小さく溜息を溢した。
身体が動かない。
壁際に設置された木目調の椅子。その椅子に腰かけた状態で、オレオの両腕は背もたれに回され拘束されていた。
足首も丈夫な綱で一つにまとめられており、身動き一つできない。
この程度の拘束なら、オレオの力を持ってすれば意図も簡単に引きちぎることはできる。
けれど、オレオがいくら力を込めて頑丈に結ばれた綱はビクともしなかった。
なんでこうなってる? そもそもここはどこ?
疑問は新たな疑問を生み出す。
事件はオレオが宿屋に戻った時に起こった。