忘却の勇者

……駄目だ。その後のことは思い出せない。


まどろむ頭で必死に記憶を探るが、それ以降の出来事は思い出せない。


すると静寂が包む込む空間に、ギーという錆ついた鉄の音が響いた。


開かれた鉄の扉。そこから現れたのは眉目秀麗な男と、如何にも悪そうな屈強な男共。


「やっと目覚めたか」


男は口の両端を不気味に吊り上げながらオレオに近づき、いきなり彼の髪を乱暴に掴み後ろの壁に叩きつけた。


後頭部に襲いかかる衝撃。


勇者の身体は頑丈だ。特に痛みなど感じないが、その衝撃によってオレオの脳は完全に覚醒した。


「お前達、何者だ!」


「何者とは酷い言われようだ。言動には注意した方がいいぞ勇者様」


こいつ、なんで僕が勇者だって……!


困惑する。オレオが勇者の血筋であることを知っているのは、現在コーズとミウの二人だけ。
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