忘却の勇者

元々存在している自我に別の自我が乗り移るのだ。高度な行動など出来るはずがない。


だが目の前の人物は言語を操り、なにかの手を使って自分を拘束している。


男はオレオの疑問を感じ取ったのか、意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。


「俺は自ら魔物を身体に取り込んだんだ。支配ではなく共存。魔物は俺に力を与え、俺は魔物に知恵を与える。理解したか?」


「自ら魔物を? なぜそんなことを!」


「口の聞き方には注意するんだなクソガキ!」


男は掴んだ頭を横に払う。


勇者とはいえ重力に逆らえることなど出来るわけがなく、そのまま床に強く打ちつけられた。


「おい時間だ。きっちり三本、三十分置きに打っとけよ」


「はい、イクトさん」


仲間の男に命令すると、イクトと呼ばれる男は部屋から出て行った。


イクトの背中を見送ると、仲間の男が黒いボストンバックからある物を取り出した。
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