忘却の勇者
男が手にしているのは、黄色液体の入った注射器。
中身は筋肉弛緩剤。
神経や細胞膜などに作用して筋肉の動きを弱める医薬品。
だが量を間違えれば、確実に死に至らしめる猛毒でもある。
人間離れした体力とパワーを持つオレオが動きを封じられていたのは、この毒の影響があるからだ。
全身の力が抜け、思い通りに身体を動かすことができない。
男は慣れた手つきで注射器を用意すると、オレオの腕に鮮やかな手つきで打っていく。
一本、二本。あっという間に三本目も打ち終わる。
「けど、これを三本も打って生きてるとは、やっぱ勇者ってもんはバケモノだぜ。大型の魔物でも僅か数秒でお陀仏する量だぜ? さすがに良心がちっとばかし痛むぜ」
「なにが良心だ。手前にそんな感情などねえくせに」
「まあな、それにしても良い商売だ。イクトさんに付いて行けば、俺たちは魔物に命を脅かされることがなくなるだけじゃなく、大金も手に入る。ガキのお守にしては十分すぎるお釣りがくるぜ」