忘却の勇者

決まった。


イクトは口の両端を器用に吊り上げ勝利の笑みを溢すが、すぐに驚愕の表情に移り替わった。


「……なーんてね」


横から声。


足首の魔具は一時的に脚力を爆発的に上昇させる能力を持つ。


魔具の力を解放し、敵の側面に移動したコーズはイクトの喉元にナイフの切っ先を向けた。


不意打ちの奇襲。急所を狙った一撃。


首の皮膚が肉が骨が、コーズのナイフを飲み込んだ。


「へ?」


飲み込んだというのは決して比喩的表現などではない。


正真正銘『飲み込んだ』のだ。


それはコーズ自身がよく理解している。
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