忘却の勇者
手に伝わったのは肉を断つ生々しい感触などではなく、軟らかくほのかに弾力のある、まるでコンニャクに包丁を入れたような感覚だった。
切り口からは血の一滴も流れ出ない。
横目でコーズの姿を確認すると、イクトは首に刺さったままのナイフに手をかけ、容易に引き抜いた。
ナイフを放り投げ、剣を握る手に力を込める。
コーズは丸腰。距離も近い。
「終わりだ坊や」
男の声色には勝利を確信した自身が宿る。
コーズはポーチに手を伸ばすが、時すでに遅し。
イクトの剣がコーズの下腹部を貫いていた。
「一本」
もう片方の剣も、コーズの身体を突き破る。