忘却の勇者

ボスが留守にしているのは好都合。


拉致の理由は後回しにして、今はここから逃げ出すのが先決だ。


「僕の刀はどこにある」


「あの黒いやつか? それなら隣の部屋に保管してある」


「そっか。それじゃあ……」


音もなく忍び寄る影に、男は気付くことは出来なかった。


気付いたころにはすでに意識を手放しており、白目を剥きながらホコリまみれの小汚い床に倒れ込む。


男の後頭部に打ち付けたのは、短銃の柄の部分。


本来とは違う使い方だが、オレオには十分な鈍器になる。


「早く帰らないと、コーズに怒られちゃうよ」


まるで遊びに夢中になって、帰りが遅くなってしまった子供。


オレオにとってこの拉致幽閉事件も、日常の一コマに過ぎないのだろう。
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