忘却の勇者

なんの変哲もないただの人型人形。


ただ一つオカシイところは、目も口も鼻もなく、全身が真っ赤に染め上げられていることだ。


掌にすっぽり収まるそれを、イクトに見せびらかすように親指と人差し指で摘まみ上げた。


「その名も“身代わり人形君”一回ポッキリのお試し版。もしもの時のために用意しておいて良かったぜ」


「ふざけるな! そんな人形で!」


「おっ、知らねえの? 所有者が受けたダメージを代わりに引き受けてくれるS級ランクの超高級品さ。消耗品で馬鹿高いが、一体買っておいて正解だったな」


人形を手放すと、粉々になって砕け散った。


「形勢逆転だな。十刀流(笑)」


小馬鹿にした笑み。うざい。非常にうざいぞコーズよ。


「テメェら……馬鹿にしやがってぇええええ!」


怒るのも無理はない。

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