忘却の勇者
虫けらのように扱っていた相手に捕えられ、挙句の果てに自身のアイデンティーと化している十刀流を、語尾に「(笑)」をつけて完全に舐められているのだから。
もし彼が「オレオもすでに逃亡した」という事実を知ったら、発狂して憤死してしまうだろう。
そのくらい、彼の腸は極限にまで煮えたぎっているのだ。
武器がなくとも、イクトの身体には魔物の力が宿っている。
鎖がギチギチと悲鳴を上げる。
「おいおいマジかよ。特殊加工を施した鎖だぜ!?」
「うおぉおおおおおおおお!」
雄叫びと共に、鎖が千切れる。
それとほぼ同時に、イクトの周りを囲むように六本の光輝く柱が出現し、柱を軸に光の壁が作られて、六角柱の空間にイクトは閉じ込められた。
拳をぶつけるがビクともしない。
魔法の正体は六角錠牢(ロッカクジョウロウ)と呼ばれる、本来は防御に使われる魔法(魔具)である。