忘却の勇者
「事情を説明したら一旦宿に帰ろう。この格好じゃあ見っともねえしな」
穴だらけの服を指さすと、マリはおかしそうに笑い声をあげた。
「あ、おかえりー」
部屋に戻ると、オレオがマフィンを食べていた。
どこから用意したのか、バナナマフィンと紅茶を優雅に食す少年。
まさかオレオが宿に戻っているとは想像だにしていなかった二人は、驚きのあまり声が出なかった。
幽閉時に男達から受けた身体の傷や痣は、宿に戻っている間に完治したようだ。
すべすべつるつるのきめ細かい少年肌に戻っている。
恐るべし勇者の身体。万能すぎである。
「二人で夜遊び? まったく、朝帰りだなんて不良のすることだよ」
オレオを助けるために命をかけた闘いを繰り広げてとは露にも思わず、オレオはズケズケと失礼なことを口走る。