忘却の勇者
まさか店長が、こんな子供に魔物退治を依頼するなんて思ってもいなかったのだ。
けれど、主人の目は本気だった。
「最近近くの山奥に血豹(ブラッディパンサー)という魔物が現れてね。人里には下りてこないから実質的な被害はないのだけど、あの山には貴重な魔法樹が生えているんだ」
魔法樹は魔力を帯びた希少な大木。
大半の魔具に使用され、魔具職人には切っても切れない大事な代物だ。
「お察しの通りだと思うが、俺は魔具職人だ。おかげで魔法樹を取りに行くこともできず、商売も下降気味。街の自衛隊に何度も要請しているが、あそこは人的被害がないと動かないし。
君は見たところ中々の手馴れみたいだからどうだろう、ちょちょっいとやっつけてくれないかな?」
飯のお礼に魔物退治に生かせるとは、とんだ鬼畜野郎である。
いくらなんでもそんなハイリスクローリターンな要請をオレオが引き受けるはずがない。
「了解です!」
引き受けやがった。
「ちょっ、ちょっと待って! 本当に引き受けちゃっていいの!? 命に関わることなんだよ!」