忘却の勇者

十分ほど経った頃、瓦礫の隙間から人間の手らしい影を少年は発見した。


少年の手が入るか入らないかという極僅かな隙間。


それでも少年はその隙間に腕を突っ込み、母の手を捕らえた。


引きずり出そうと力を込めるが、少年の力では瓦礫はビクとも動かない。


それでも少年は諦めなかった。


腕は傷つき、血が流れ、今まで感じたことがない痛みが襲ってくるが、母の体温を感じれば痛みは不思議と吹き飛んでいた。


痛みと戦い、恐怖と戦い、少年は母を助けようと力を絞る。


―――刹那。


少年は後方へ倒れ、瓦礫の山から転がり堕ちた。


後頭部を打ち、痛みに顔をしかめる。


だが、右手には母の温もりと感触が残っていた。


不思議に感じ目を開ける。
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