忘却の勇者
腕が伸びる。
魔物の力を得て、新たに授かった力。
伸ばされた腕はアモスではなくレインの首へ一直線に向かうが、寸前の所で進行は止まった。
苦痛に歪むイクトの表情。
良く見ると伸びた腕から血管が浮かび上がり、手首に人の手形のような跡が色濃く現る。
まるで見えない手によって腕を掴まれているような。
視えない力によって抑え込まれている感覚。
レインは眼前に迫る敵の腕を静観し、隣に座るアモスへと視線を流した。
わざわざ手を出さなくても、僕一人でやれたのに。
「クソが!」
イクトは腕を戻すと、腰の剣を鞘から引き抜いた。
相手は賢者。いくら魔物憑きのイクトでも、勝算は低い。