忘却の勇者

腕が伸びる。


魔物の力を得て、新たに授かった力。


伸ばされた腕はアモスではなくレインの首へ一直線に向かうが、寸前の所で進行は止まった。


苦痛に歪むイクトの表情。


良く見ると伸びた腕から血管が浮かび上がり、手首に人の手形のような跡が色濃く現る。


まるで見えない手によって腕を掴まれているような。


視えない力によって抑え込まれている感覚。


レインは眼前に迫る敵の腕を静観し、隣に座るアモスへと視線を流した。


わざわざ手を出さなくても、僕一人でやれたのに。


「クソが!」


イクトは腕を戻すと、腰の剣を鞘から引き抜いた。


相手は賢者。いくら魔物憑きのイクトでも、勝算は低い。
< 212 / 581 >

この作品をシェア

pagetop