忘却の勇者

血迷ったか。


レインは心の中で呟き、男の行動を嘲笑う。


「儂に敵うと思うのか?」


「黙れ! 今の俺には魔王から授かった魔物の力がある。いくら貴様が賢者であろうと、老いぼれなどに負けるはずがない!」


「やはり魔王か。とことん地に堕ちたなイクトよ」


溜息を吐きだしながら、アモスは懐から一冊の本を取りだした。


厚みのある一冊。


長い歴史の中で色あせた羊皮紙は、独特の匂いを放つ。


ボロボロの茶味がかった表紙には、円状の複雑な魔法陣と呪文が描かれている。


長年アモスの元にいたレインも、実物を見るのは初めてであった。


「それは……!」


喪失魔術が書き記された、七つの禁書のその一冊。
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