忘却の勇者

宙に投げ出されたレイン。


この高さから落ちればタダでは済まないが、落下の軌道上に何重にも展開した薄い氷壁を突き破りながら地面と無事着地した。


腕を戻して氷柱を外す。


攻めに転じようと剣を手にするが、レインがイクトから離れたのを確認したイクトは、術を発動させた。


―――イクトの周りに出現したのは、鮮血色のドーム状の壁。


彼を包み込むように現れた壁は、小さな棘が一面に生えている。


だがよくよく眼を凝らして見ると、それは壁に生えた棘などではなく、隙間なく配置された細い杭のような得物であることがわかる。


なんだこれは? なんの魔法だ?


以前マリにやられたような身動きを封じるような術に似ているが、この状況で自分を拘束しても意味がない。


なにを企んでやがるあのジジイ。


背中に冷たい物が伝う。
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