忘却の勇者

「なるほど、これが魔物の力か」


岩肌は抉れ、大気には細かな粒子が舞う。


アモスは車椅子を走らせ、地面に横たわる血に染まった肉塊を見下ろしていた。


手足はひしゃげ有らぬ方向へ向き、辛うじて原型を留めている上半身からは腸が溢れ落ち、皮膚を突き破った肋骨が日に照らされている。


辛うじてという表現が似つかわしいほどの異形な姿。


奇跡的に顔に大きな傷がなく、そのおかげかこの物体が人であることを証明してくれていた。


目を背けたくなる光景。


生死の確認など不要だと思われたが、アモスは感心したような声を漏らしたのだった。


イクトは生きていた。


喉がやられているのか、ヒューヒューと息が抜けるような声を漏らし、紅く染まった眼はしっかりとアモスを捉えている。


彼に宿る魔物の力が、ギリギリの境目で彼の命を繋ぎとめているのだろう。
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