忘却の勇者

「わかった。後は頼む」


困ったように微笑むと、アモスは一人で家へと戻った。


残ったのは少年と、虫の息の血塗れた物体。


レインは冷淡な笑みを浮かべると、耳が聞こえるかわからぬ物体に声をかけた。


「無様だな。これが赤銅の魔人の異名を持つ、十刀流のイクトの成れの果てか。良いことを教えてやろう。貴様の言うとおり、アモス様は年をとりすぎ老いぼれた。
魔術師としての経験値と異常なまでの精神力でカバーこそしているが、体内に蓄積されている魔力は賢者としての基準値をギリギリで満たしている状態だ。
なのに貴様は負けた。手も足も出せずにこの様だ」


どうやら耳は生きているようだ。


あらぬ方向へ曲がっている右腕を必死に動かし、レインの足首へ宛がった。


だが掴もうと腕に力を込めると、ブチブチと筋繊維が裂け、右腕はボトリと地面に落下する。


「醜いな汚物め。貴様が元々弱かったのか、魔王に授かった力が弱かったのか。いずれにせよ、所詮貴様はその程度の器しかなかったということだ」


レインはもげた右腕を踏み潰し言い放つ。
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