忘却の勇者

一番もサイの足元に転がり、この場に立っている者は誰もいない。


制限時間を二分残して試験は終了かと思われたが、殺気が含まれた視線を感じる。


感じた先を目で追うと、先ほどサイに倒されたはずの五番が左足を庇いながら立ち上がり、サイへと睨みを利かせていた。


フードは外れ、顔面が露わになる。


肩まで伸びた青い髪。前髪は汗によって額にくっ付く。


「こうなった以上、もう出し惜しみは必要ねぇな!」


ぜぇぜぇと息を荒げながら、五番は声を荒げた。


五番は右手を堅く握り胸の所に持って来ると、拳を作ったまま右腕を横に払い空間を叩いた。


「さざめけっ……!」


直後、耳をつぐむ高音がサイに襲いかかる。


ガンガンと直接脳をハンマーで叩きつけるような、痛々しい音波が鼓膜を突き破りダイレクトに脳を刺激する。
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