忘却の勇者
耳を塞ぎながら片膝を付いてしまう。
高音波攻撃。こんな隠し玉を持っていたとは。
この音では耳は使い物になれないだろう。
強力な音波が三半規管を刺激し、平衡感覚も奪われる。
それになにより、血管がブチ切れそうなほどの高音のせいで集中力が乱され、魔力を練ることができない。
動きも魔法も封じられれば、いくらサイでも成す術はない。
「残り一分……これで、俺の、か、ち……」
五番は意識を手放すと、そのまま床に倒れ突っ伏した。
音波攻撃も止み、サイは上体を起こす。
五番の身体は、すでに限界を超えていたのだ。
「危なかったですね」
隅の方で待機していたオメガが声をかけるが、サイは反応を示さず十人の受験者達の足元に再度魔法陣を展開させ、異空間移動の魔法を発動させた。