忘却の勇者
アモール帝国
アモス賢者に頂いた帆船に揺られ早一週間。
本来なら海上の生活にもそろそろ飽き始めてきたコーズは、船首に居座り水平線の彼方を見続ける。
彼の頭の中は、まだ見ぬアモール帝国に想いを馳せていた。
初めて訪れる国。初めて足を踏み入れる土地。
ネシオル王国とは違い、科学技術に特化した国。
国柄も違えば風習も違う。
見たことも聞いたこともないような物や事柄が、自分たちを待ち構えている。
一抹の不安や恐怖もあるが、それはなんとかなるだろう。
いくら自分達が敵国の人間とはいえ、こちらには勇者の血を引くオレオがいる。
身柄を拘束されたり、危険な目に会うことはまずないだろうとコーズは考えていた。
それになにより、不安や恐怖を遥かに凌駕する楽しみがあった。
休戦中の敵対国とはいえ、未知の国に降り立つことに胸の高鳴りを抑えることは到底出来ない。