忘却の勇者

だが、その瞬間はいつまで経っても訪れない。


そっと瞳を開けると、自分の目の前にオレオの背中が写った。


彼の右手には、黒い刀身の刃が握られていて、なにやら液体が付着している。


「怪我はない?」


身を翻してオレオが尋ねる。


黙って頷くと、オレオは空いている左手をマリに差し出した。


「今は逃げよう。ここは危険だから」


危険? そういえばさっきの血豹は?


ふと視線をオレオの背後に向けると、そこには胴体を真っ二つにされた肉の塊が転がっていた。


見るも無残な姿。


獰猛と恐れられた血豹の姿はそこにはない。


一瞬吐き気を催したが、すぐに視線を外し口元に手を当てて寸前で堪えた。
< 25 / 581 >

この作品をシェア

pagetop