忘却の勇者
だが、その瞬間はいつまで経っても訪れない。
そっと瞳を開けると、自分の目の前にオレオの背中が写った。
彼の右手には、黒い刀身の刃が握られていて、なにやら液体が付着している。
「怪我はない?」
身を翻してオレオが尋ねる。
黙って頷くと、オレオは空いている左手をマリに差し出した。
「今は逃げよう。ここは危険だから」
危険? そういえばさっきの血豹は?
ふと視線をオレオの背後に向けると、そこには胴体を真っ二つにされた肉の塊が転がっていた。
見るも無残な姿。
獰猛と恐れられた血豹の姿はそこにはない。
一瞬吐き気を催したが、すぐに視線を外し口元に手を当てて寸前で堪えた。