忘却の勇者

妄想もここまでぶっ飛ぶと恐怖しか感じない。


本日二度目の溜息を溢しながら、マリはよしよしとコーズの背中をさすってやった。


「明日は私がいなんだから、コーズがしっかりしないでどうするのよ」


明日の作戦にはマリは参加しない。


いや、参加できないという表現が正しいだろう。


ネシオル王国の魔法や魔具の教授してほしいと、ケイ自らが申し出たのだ。


『帝国の一年は他国の十年に匹敵する』


と言われるほど、アモール帝国は科学技術に特化している国ではあるが、反面魔法技術に関しては疎い面がある。


もちろんアモールにも魔具の原料となる鉱物や職人も存在するが、魔法大国のネシオルに比べればどれもぞんざいな物ばかり。


そこで魔術に通じ、魔具職人の下で働いていたマリに白羽の矢が立ったのだが……。


突き詰めればそれは、ていのいい人質なのであった。


オレオとコーズが任務をキチンと全うし、逃げ出さないようマリを手元に置いて置きたいというのが本音なのだろう。
< 275 / 581 >

この作品をシェア

pagetop