忘却の勇者
マリは首を横に振ると、コーズの背中をポンッと叩いた。
「私なら大丈夫。それよりちゃんと勇者様を助けるのよ」
「わーてるよ。なんたって世界の救世主様だからな」
夜風が窓ガラスを叩きつけ、ガタガタと枠が揺れる。
指先で摘まんでいた乾き物を口に運び、奥歯で染み出る味わいを噛みしめた。
「うま」
もぐもぐと夜食を堪能していると、マリがいつになく真剣な面持ちで口を開いた。
「ねえ、コーズってオレオをのことどのくらい知ってる?」
「は? なんだよいきなり?」
「いや、特に深い意味はないの。ただオレオの口から昔のこととか聞いたことないじゃない? どんな所に住んでたとか、どんな生活をしてたとか。船にいる時も自分のことはほとんど話そうとしなかったから、なにかあるのかなーっと思って」
コーズは酒の瓶を置いて、顎に手を当て考える。
そういえば、オレオから過去の話を聞いたことがない。