忘却の勇者
クソッ。速いな。
心の内で舌打ちをする。
スピードには自身があるオレオだが、マリを抱え込んだ体制では本来の動きができないでいた。
このままでは埒があかない。
オレオはマリを抱える体制を立て直して腰の黒刀を引き抜くと、両脇にある大木の幹を二振りで根元から断った。
斜めに切られた大木は、血豹へ向かって倒れていく。
「木を切った?」
驚きの声を上げるマリ。その声は地面と大気の震えによって消え去った。
大木が崩れた衝撃は凄まじく、轟音は森の中を一瞬にして駆け抜ける。
森に巣くう僅かな鳥たちは騒ぎ、辺りには粉塵が舞って血豹の姿は確認できない。
足を止める。マリを下ろすと、オレオは黒刀を手にしたまま一歩前へ。
粉塵が治まり始める。