忘却の勇者

だがこの状況を打破することは不可能だろう。


そう、今までのイクトならば。


彼はほくそ笑む。


コーズは知らない。彼が魔王から新たな力を授かったことを。


下唇を自ら噛み切ると、傷口から出血し血液が顎を伝って地面に落ちる。


ポタポタと小さな黒い染みが足元に出来き、イクトはそれを確認すると傷口を舐め取って。


「魔封陣……展開」


静かに言葉を紡ぐと、地面に紫色の魔法陣が展開された。


怪しい光を放つ魔法陣。


突如現れた術式に二人とは足元に視線を奪われる。


隙が生じた。


イクトは右腕に力を込めると、腕はゆっくりと持ち上がる。

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