忘却の勇者

他の部位も動かせる。魔法が完全に解除されている。


身体の自由が戻ったことを確認すると、イクトは再び駆け出した。


狙いはもちろん、時魔法を操るエクター。


地面を蹴る足元も、魔封陣の展開音が洞窟内に強く反響していて二人の耳には届かない。


「ッ!? 危ない!」


イクトの行動に気付いたコーズは声を荒げる。


コーズの声に反応して、エクターは顔を上げた。


瞳が映しだしたのは、先ほど時を奪ったはずの男が武器を手に走り出す姿。


戸惑いと困惑が複雑に絡み合う中、エクターは反射的に時魔法を放とうとするが―――


「えっ?」


違和感がすぐに訪れる。


魔力を練れない。つまり魔法を放つことができない。

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