忘却の勇者
すぐにやってくる死の痛みを待ち構えるように、エクターは悔しさに顔を歪めながら目を瞑った。
「二人仲良くあの世へ―――」
言葉の続きは甲高い金属音によって遮られた。
瞼を開けると、そこにはイクトの一撃を受け止めるオレオの後ろ姿が写った。
剣を払うと互いに距離を取り、オレオは黒刀を構えながら顔を後ろに向ける。
途端に表情が歪む。
「……コーズ?」
フローレンスを無事に洞窟の外へ運び、急いで戻ってきたオレオ。
なにやら異変を感じると、先ほどにはなかった魔法陣が展開されており、さらには二人が劣勢に立たされている。
ロクに状況を把握せず咄嗟に飛び出しイクトの一撃を受け止めたのだが、コーズの怪我を確認すると構えた黒刀をすっと下ろした。
血の匂い。黒く染まった衣服。