忘却の勇者

それ以前に、距離を詰める動作すら確認できなかった。


気付いたら剣が折れていたというのが正直な感想。


もしも身体が反射的に後退しなければ、オレオの二撃目をモロに喰らっていただろう。


「枷が外れたのか。これが純血種の力……」


折れた剣を見つめながら呟いた。


剣を手放し鞘から新た刃を抜き取り、口の両端を吊り上げる。


強張った笑みは彼の動揺を写し出す。


ここで始末しなければ。まだ不安定なこの時期に。


魔王様の障害になる前に。


「お前達!」


イクトの叫びと同時に、泉から大蛇の姿を模した魔物が数十匹飛び出した。


まだ洞窟内に魔物は残っていたらしい。

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