忘却の勇者

血の気が引く。


もしこの黒刀が飛んでこなかったら、確実に噛み殺されて……ん? 黒刀が飛ぶ?


「間に合って良かった! 怪我はない?」


「……ねえ、これ投げたのオレオ?」


「そうだけど、それが……」


言葉を呑んだ。


マリの目には、大量の涙が貯まっていたのだ。


「馬鹿っ! ちょっとでもコントロールミスったら私に直撃してたじゃない! 凄く怖いじゃない!」


「だ、だって、飛刀の方が確実に素早く仕留められるし……。お願いだから泣かないでー!」


魔物を一瞬で仕留められるオレオでも、女の子の涙には弱いのだった―――



< 32 / 581 >

この作品をシェア

pagetop