忘却の勇者
彼はマリの横に立ち棺を覗くと、胸の前で十字を切った。
「ゆっくり休んでくれ」
―――ゆっくり休んでくれ?
緩みかけた感情の門は、音を立てて崩れ落ち。
気付くとマリは拳を作り、ケイの右頬を殴っていた。
骨と骨が当たる鈍い音がする。
周りの兵が騒然としたが、ケイが左手を上げてそれを制する。
そしてマリに視線をぶつけた。
「ふざけないでよ……あんたが巻きこんだんじゃない! あんたが……あんたがコーズを殺したのよ!」
抑えていた感情が爆発する。
マリはわかっている。
ケイが悪いわけではない。誰も悪くなどない。