忘却の勇者

ではこの怒りの矛先をどこに向ければいい?


どうしようない吐き出したい衝動を、どこにぶつければいい?


無抵抗のケイにマリは何度も頬を殴り続ける。


何度も何度も。


何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。


手の甲には血が滲み、殴られ続けたケイの頬は赤黒く変色している。


マリは両膝をついて崩れると、ポタリポタリと床に黒い染みを作り出した。


口に溜まった血を吐き出し、汚れた口元を袖で拭うと、ケイはマリを見下ろしながら言葉を落とす。


「気は済んだか?」


辛辣な言葉。


それでもマリは顔を上げず、ずっと視線を床に向けたまま。


「なんでよ……」
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