忘却の勇者
壁に寄り掛かった黒髪の女性。
ケイはその姿を視界に入れたが、すぐに前へ向き直す。
そっけない態度を気にせず、女性は歩みを続けるケイの後を追う。
「悲しい顔、してる」
彼女の言葉に一瞬足が止まったが、何事もなかったかのように歩き出した。
「悲しみ必要がどこにある。亡くなったのはなんの力も持たない異邦人。フローレンスとエクターを失うという最悪の事態は避けられた。最高のシナリオじゃないか」
あくまで重要なのは鉄血の十三騎士のメンバーであるフローレンスの救出。
フローレンスはほぼ無傷で、エクターも無事に任務を終えて戻ってきた。こちら(軍)には一切の被害はない。
そう、最高のシナリオ。
「……最高で、最低のシナリオだよ」
ポーカフェイスで答えた言葉は、どこか悲痛の色を帯びていて。
ユーウェインは自分よりも高い位置にある肩を叩くと、早足にその場から離れて行った。