忘却の勇者

「強い怒りは冷静さを欠き、深い悲しみは戦う意思を消失させる。だから僕達勇者の血を引く人間は、怒りと悲しみの根源を全て抹消させることにした。
家族の死、仲間の死、恋人の死。それらの記憶を全て。“その人物に纏わるあらゆる記憶”を全て抹消することによって、怒りや悲しみといった負の感情を消すことにしたんだ」


怒りと悲しみの開放。


つまりそれは“大切な人を忘れる”ということ。


その人に対する想いが強ければ強いほど、失ったときの衝撃は大きい。


だからこそ忘れるのだ。


消失感に浸ることなく、武器を手に取り戦うために―――


「僕達が勇者と呼ばれる由縁はその力が一番大きいかもね。仲間がいくら倒れようと、例え家族が惨殺されようと、冷静に戦うことが出来る戦闘民族。だから大賢者も聖剣を僕達一族に託したんだと思う。……そして僕も、残念だけどその能力を受け継いでいる」


「受け継ぐって……まさか!?」


脳裏を過ったのは、コーズと過ごした最後の夜。


オレオの過去について語ったあの夜。


でもまさか。そんなことって。
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