忘却の勇者
マリの目が覚めたのは、オレオが旅立ってから約一時間経った後だった。
主人からオレオの経緯を聞き、居ても経ってもいられなくなり店から飛び出そうとしたが、もう追いつけないと主人に宥められ店に置かれた椅子に腰掛けた。
ただ一言お礼を言いたかった。助けてくれてありがとう、と。
「まるで嵐みたいな子だったなぁ」
嵐のように現れて、嵐のように去っていく。まさにオレオを表すにふさわしい言葉であろう。
ふと主人に目をやると、彼はのん気に新聞を開いていた。
……え?
その表紙に、目が釘付けになる。
主人から乱暴にそれを奪うと、一面の記事を食い入るように見つめ黙読した。
『勇者現る!? 〜黒髪金目の少年が、各地で魔物退治〜』
黒髪・金目・少年。
その三つの単語で結びつく人物をマリは一人だけ知っている。
「まさか、オレオが……?」
新聞を強く握りしめる。マリの瞳は決意に満ちた色をしていた。