忘却の勇者

「もしかして、あそこにある剣が聖剣?」


部屋の中央に無造作に置かれた剣を指さすと、ドラゴンはまたも首を縦に振った。


『左様。勇者の血筋しか扱うことが出来ぬ聖なる剣。邪を払いこの世に光をもたらす聖剣だ』


黙るオレオ。マリも聖剣に目をやったまま押し黙る。


『どうした? あまりにも神々しくて恐れをなしたか』


「いやぁ……聖剣っていうからさ。こう、もっと神聖な神殿みたいな場所にあって……ねぇ?」


「うーん……私も光輝いて如何にも『聖剣』という金ピカな剣を想像してたし。聖剣を守るトラップやら何やらがあるもんだとばかり……ねぇ?」


とどのつまり、拍子抜けというわけだ。


『てめぇら聖剣をなんだと思ってやがる』


「だって見た目も普通だし、特に凄い魔力も感じないからさ。拍子抜けしちゃったんです」


ドラゴンの表情は変わらないが、頭に響く声はドスが効いてイラついていることが容易にわかる。
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