忘却の勇者
「思わぬ伏兵のせいで、大変なことが起こりそうだな。サイ」
「……そうですね」
アモスの言葉の意味を理解しているサイは、躊躇いがちにそう答えた。
フードのせいで表情は読み取れないが、どことなく儚げな雰囲気。
「ですが、そのお陰でようやく動き出せる。もはや大人しくしている必要などない」
サイはアモスに近づくと、右手をアモスの顔にかざした。
それがなにを示しているのか、アモスは唯一知っている。
サイはアモスの教え子なのだから。
「アモス賢者。貴方には死んでもらう」
―――海面が夕日によって紅く染まる。
夕凪の中に立つサイは踵を返すと、再び足元に魔法陣を展開させてその姿を消した。
抜けがらには見向きもせずに、己の居場所へと帰ったのだった―――