忘却の勇者
ケイの手には短銃が握りしめられ、しっかりとその標準をオレオに合わせていた。
一度目の不法入国の時でさえ、自己防衛の時にしか銃を抜かなかったケイが、何も言わずに武器を自分へと向けている。
疑問を感じざるを得ない。
「見ての通りだ」
淡々とした口調でケイは言葉を発した。
コーズの遺体と対面した時と同じ口調に、マリの背筋に冷たいなにかが伝った。
「事情が変わったのだ。もう前のような特例を敷くことはできない」
「だからどういうこと!」
たまらず声を荒げるが、ケイは至って冷静で表情を一切変えない。
全方位から銃口を向けられている異常な光景。
この国に劇的な変化が起こったのは明白だ。
軍事のトップに立つ彼が、こうして勇者である自分に銃口を突き付けるほどのなにかが。