忘却の勇者

魔王を倒しても、戦は止まらない。止められない。


エクターは眉尻を下げて困ったような表情を浮かべる。


沈黙。静寂。


無音が辺りを支配するが、沈黙の水面に一石を投じたのはエクターだった。


「十三騎士のメンバーとして言うけど、魔王を倒しても戦争は止まらないと思う。奴らはそれだけのことをしたんだ。魔王が消えたからといって許されるわけがない。
だけど魔王の被害は世界中で起きてる。だから、やっぱり魔王は倒さないといけないと思う。
オレ達じゃ、魔王を倒すことはできないからさ……」


―――嗚呼、そうだ。なにを悩むことがあったんだ。


魔王を倒せるのは、勇者の血を引き聖剣を操ることできる僕しかいない。


戦う理由など単純明快じゃないか。


なにかを守りたいから戦う。守るために戦う。


戦う理由など、それだけで十分じゃないか―――


忘却の彼方に消え去った過去の記憶。
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