忘却の勇者
なぜ自分が魔王を倒す旅に出たのかはわからない。
わからないけれど、消えることがなかったこの誓いは唯一の過去の記憶だ。
この記憶を、約束を守りたい。
魔王を倒すというこの誓いを……。
「そうだよね。どんな背景があったとしても、魔王は人々を困らせている事実に変わりないもんね」
「そうそう。それに魔王がいなくなれば、戦争を止めるキッカケにはなるは……」
ピピピピピっと、機械音が響き渡った。
エクターはポケットから長方形の鉄の塊を取りだし、その様子をオレオを訝しげに見つめている。
「気になってたんだけど、それはなに?」
「嗚呼、アモールの最新機器さ。ケータイという小型の電話機なんだ」
ケータイと呼ばれる機械のボタンを押すと、エクターはそれを耳に当てた。
「もしもし。……はい、大人しくしています。え、今からですか? はい……わかりました。すぐに向かいます」