忘却の勇者

咄嗟に武器で火の粉を蹴散らし、アグロが火柱のあった中心部に視線を注ぐ。


「チッ」


小さく舌打ちをすると、先ほどと全く姿形が変わらない人物に武器を構えた。


人智を超えた相手を目の前にしているというのに、アグロの口元はニヤけていた。


魔王に唯一対抗出来るネシオル王国の最高戦力。賢者の称号を与えられた歴代最強の四聖官。


そんな化け物を相手に、自分達はほぼ互角に渡り合っている。


互いに決定打はないが、こうして五分の戦いをしていることが重要であり、それだけで十分な戦果なのだ。


最低でも暫く前線に出られぬほどの大怪我を与えれば儲けものと考えていたが、このままいけば最高の結果が得られぬかもしれない。


戦いに絶対などないが、三人は頭の片隅でそう思う。


まだこちらには、サイには晒していない隠し玉があるのだから―――


「……終わりだ」
< 400 / 581 >

この作品をシェア

pagetop