忘却の勇者
聞き逃しそうなほど小さな声で呟いた言葉は、アグロの耳にはしっかりと届いていた。
終わり? 自ら負けを認めたのか?
いや、それはない。あのサイ賢者が自身の負けを認める様なことは絶対にしない。
もし負けを認めれば、それはネシオル王国がアモール帝国の軍門に降ることと同義である。
死ぬこととなっても、命ある限り負けを宣言することはありえない。
ならこの言葉の意味は?
背筋に悪寒が走り、頬に嫌な汗が伝う。
サイは両手を地面に翳すと、呟くような声量で言葉を紡いだ。
「喪失魔術―地殻変動―」
一瞬の間。次の瞬間アグロ達の耳に届いたのは、遠くから響くくぐもった爆発音。
背後から聞こえた轟音に振り向くと、水平線の彼方に十本の水柱がそそり立つ姿を目にした。
ここから見れば小さな噴水だが、実際にはかなり大規模なものだろうと予想がつく。