忘却の勇者
それに、このままでは記憶がいつ消えるかもわからない。
鞘から黒刀を引き抜き、その切っ先をエクターに向ける。
この時を待っていた。
主力戦力がネシオル王国に向けられた今、オレオの力を持ってすればここから脱出することも可能である。
エクターさえ押えることが出来ればだが。
「君の魔法を何度か喰らって、時魔法に対する抵抗がついた。この距離なら、確実に仕留められるよ」
ハッタリではなく事実。
エクターの時魔法を何度か受け続けた勇者の身体は、時魔法をかけられなお動きを封じられることはなくなった。
無論エクターが本気を出したらわからないが、それでも目と鼻の先の至近距離ならば、術を喰らう前に一太刀浴びせることはできるだろう。
緊迫した雰囲気が空間を支配する。
強行突破などしたくはないが、こうでもしなければこの状況を打破できない。