忘却の勇者
『順調に航行中だ。後三日もすればネシオルに到着する。ところでそっちの様子はどうなんだ。勇者様はなにしてる?』
「勇者?」
定時連絡になぜ勇者の名前が出てくるのだろう。
まさか今しがたその勇者にやられたなどと言えるわけなどなく、適当に誤魔化した。
「なんで勇者の話になるのかな」
『ケイが臭っさい芝居までして、勇者を基地に無理やり滞在させたからだよ』
言葉につまる。
壁に背中を預けて寄りかかり、困ったように前髪を掻きあげた。
「やっぱアグロには敵わないなぁ」
『そんで、どうして勇者を拘束したんだ? 別に野放しにしたってなんの問題はないだろ』
いくらオレオがネシオル人とはいえ、魔王を倒すために旅をしている勇者の一族。
彼が己の任務を放棄し、戦争に参加するようなことは絶対にありえない。