忘却の勇者

「ごめんねエクター。だけどこれ以上僕達に関わると、エクターの立場も危うくなるから」


「馬鹿……が……」


オレの立場なんかどうでもいいのに。最後までオレオ達の役に立ちたいのに。


ぶちまけたい想いはすぐ口元まで来ているが、喉が鳴らすのは乾いた空気。


言葉を紡ぐことはない。


「ケイさんには僕に脅されて仕方なくやったと言えばいい。僕が言うのもなんだけど勇者の力は未知数だから、多少は考慮してもらえるかもしれないし」


声にならない声を上げるが、乗せた想いは届かない。


オレはまだなにもしてない。なんの手助けもしていない。


コーズの謝罪も、まだしていない。


意識は朦朧としていくばかり。


世界が黒い闇に染まると、エクターは深いまどろみの世界へと墜ちて行った―――



< 426 / 581 >

この作品をシェア

pagetop