忘却の勇者
おかしいな。上手く会話がかみ合わない。
うーんと唸るが、レインは泉に腕を突っ込んだ。
そのまま水を掴み、ゆっくりと持ち上げる。
指の間から水が漏れ、水面が揺れた。
「この泉に氷結魔法をかけたんです。だけど凍るどころか水温も低くなっていない。なにかありますよ。ここに」
賢者仕込みの氷結魔法を持ってしても、凍ることがない謎の泉。
ふとオレオは、ある日のエクターの言葉を思い出した。
『コーズを刺し殺したあの男は、泉に飛び込んで逃げた』
自身の記憶にはない記憶。だがもしかしたら……。
オレオの脳裏にある考えが過った。
予測に過ぎないが、試す価値はあるだろう。
「……飛び込もう」