忘却の勇者
怒りで魔力が高まり、冷風が一層強くなる。
記憶の底に封じられた禁断の記憶。
呼び起された負の歴史は、脳内で鮮明に再生される。
四面楚歌の炎の海。
血に染まった故郷の大地。
耳を刺す甲高い悲鳴。
柔らかい笑みを浮かべる男の顔が、苦痛に歪んだ所で映像は途切れた。
断片的な記憶の欠片。
その欠片の中に写っていた男が、今目の前に立っている。
「家族? 申し訳ないが君の顔を見ても何も思い出せない。どうやら坊やの家族とやらは、私の記憶にすら刻む必要がないほどの低能な輩だったのだろう」
「ふざけるな!」
左手を前に翳すと、突風が吹きだし、氷のつぶてと共に男へ襲いかかる。