忘却の勇者
勘の良い君なら気付いただろう。そうだ、四聖官が生まれた理由はその禁書が世に出回ることを防ぐことだ。
大賢者の封印術とはいえ、月日が経てば効力は薄れる。大賢者は四人の優れた魔術師を選出し、禁書の監視をさせたのだ。
選ばれた四人は賢者と呼ばれ、自身の死に際が近いことを悟ると、新たに四人の賢者を選出……。
これが後に四聖官と呼ばれるシステムの根本。実に合理的で効率的だ。
話を戻そう。新人四聖官はその場所で全ての事実を聞かされ、禁書が封じられている一室に新たな封印術を施す。
これが四聖官としての最初の任務であり、四聖官就任の儀式となっている。
歴代四聖官が個々に施した数多の封印術。それらは複雑に絡み合い、四聖官とはいえ解除することが出来ぬ鉄壁の壁となる。
さて、ここで第二問。そこまでして守っている禁書の中身は、一体どのような魔術でしょうか?
考えたまえ、イメージだ。子供独特の想像力豊かな思考で答えを導きたまえ。
そうか、わからないか。無理もないな。この状況ではゆっくり悩むことも出来ぬだろう。
答え合わせだ。こちらも至ってシンプルなものだ。誰もが一度は考え、望み、神をも凌駕する素晴らしい魔術。
そう“死者蘇生”生命のコントロールだ。
先ほども述べたが、死というのは平等だ。子供も大人も老人も金持ちも貧乏人も一国の主でさえも、確率の問題だが行きつく先には必ず死が待ち受けている。
だがその死をコントロールすることが出来たなら、世界の理を覆すことが可能ならば、その者は神をも超えた新たな万物の支配者となるだろう。
私もその一人。万物の支配者となるべく者だ。
ここまで語れば君も察しがついただろう。そうだ、四聖官は長年の間封じられていたパンドラの箱を開けてしまったのだ。
箱の中身は最強の喪失魔術。死者蘇生。
彼らはそれを使い、勇者に滅ぼされた魔王をこの世に復活させたのだ。
魔王を復活させた目的? そんなものは知らん。あらかた予想はつくが、私にはそんなことなどどうでもいい。
私が手を貸しているのは、世界が恐怖に満ち満ちている様を眺めるのが実に愉快だから。後、彼らに借りがあるからだ。
おや? その借りとやらが気になるのか少年? そうだろうな、私ほどの力の持ち主がなぜ四聖官の下についているのか不思議で仕方がないだろう。