忘却の勇者
では第三問といこう。なぜ私は彼らの雑務をこなしているのでしょうか?
……いや、出題を変えよう。なぜ彼らは禁書が封じられている一室の強固な封印術を解くことが出来たのでしょうか?
内容が違うと思っただろう。残念だが結論は同じなのだ。上辺が違うだけで根本的な部分は大差ない。
こちらも至って単純明快。私が封印術を解いたのだ。
どうやって? 四聖官ですら解除が出来ぬ封印術を解けるのか?
出来るのだよ。私には。赤子の首を狩るように、意図も容易く。
これを語るにはまず私の過去を話しておこうか。なに、すぐに終わる。心して聞きたまえ。
ファンタジア王国なる国を知っているかな?
まあ知らんだろう。百年以上もの前に崩壊した国だ。今の草木も生えぬ不毛の大地と化している。
ファンタジア王国は当時、ネシオル王国と肩を並べるほどの大国だった。
大小様々な民族が住み、その大半が一族固有の秘術を会得していた。魔法技術に頼っているネシオルとはまた異なる魔術国家だったのだ。
私もまた、一族固有の秘術を代々受け継ぐ者だった。
王国の建国に尽力を注いだ優秀な一族。王国内でも発言力を持つ一族だったが、ある日を境に転落することになる。
なにが起こったと思う? ハメられたのだよ。主権を奪おうとする野蛮な一族によって。
坊やのように氷結魔法を得意とする一族だったよ。君よりも何倍も強かったがな。
一族は復讐を誓った。我らが受けた屈辱を、彼らにも味わってもらうと。
一族の末路は子々孫々にまで語り継がれた。無論、私にも。
私は大いなる力を持って生まれてきた。そう、一族の復讐を成し遂げるためにだ。
だが私の復讐は失敗に終わってしまった。例の一族の子供にやられてしまったのだ。
今思い出しただけでも実に腹正しい。腸が煮えくりかえる。
感じるだろう。君が死なないよう最小限の苦しみを与えているが、怒りのあまりつい力の加減を忘れてしまう。
うっかり首の骨を折らぬよう注意せねばな。まあ、それも一興。その時はその時だ。
さて、彼の攻撃を喰らった私は、長い年月の間氷の結晶の中に生きたまま封じられた。
実に苦痛であったよ。動くことが叶わぬ身体で出来ることは、ただただ思案することのみ。
何十年、何百年と老いることも死ぬことも出来ずに結晶の中で過ごす毎日。